古い建物の活用にはデザイン性の付与が必要
私たちは、古い建物を店舗や宿泊施設など「古さがプラスに転じる使い方」に転用し、活用する提案を行っています。
ここで重要なのは、単に「使い方(用途)を変える」という手法だけではありません。建物にかかわる人の感情や意識を変え、「古いことが魅力的に見える」状態をつくることが本質的な目的です。
関係者であれば、「この扉の質感や外観、積み重ねてきた歴史が素敵なんですよ」と説明されれば認識が変わり、仕様を変えずとも価値を感じられるようになるケースもありますが、建物と関係のない一般の方に、言葉だけでそれを理解してもらうのには限界があります。
そこで必要になるのが、「デザイン性の付与」です。
対比が生み出す2つのデザインアプローチ
ここでは、対比によって魅力が生まれる2つの事例をご紹介します。
事例1:古い建物が「新しい要素」を引き立てる(空間の対比)
古いビルの1室に入ると、天井が取り払われてコンクリートが裸になり、足元には無垢のフローリングが広がっている隠れ家美容室。そうした空間を目にしたことはないでしょうか。
新築ビルで同じ内装をしても「かっこいい」で終わるかもしれません。しかし、古い外観とのギャップ(対比)があるからこそ「中はこんなデザインになっているのか!」という驚きが生まれ、空間の魅力が跳ね上がります。
つまり、ここでは古い建物(外観)が主語となり、新しくつくられた室内のデザイン性を引き立てているのです。
事例2:「新しい要素」が古い建物を引き立てる(素材・要素の対比)
一方、古い戸建住宅などでは、味わいのある木製サッシや柱、土壁などを際立たせるため、あえて周囲の壁をすっきりとした白塗りで仕上げる方法があります。あるいは、古い建物に対して、看板だけを透明アクリルや金属板といった現代的な素材で仕上げるのも効果的です。
これは空間全体を作り直すのではなく、もともとある素材感を引き出すために最小限の工事を行うアプローチです。意図的な現代的素材(フック)を置くことで、視線を誘導し、建物の魅力を再認識させます。
つまり、ここでは新しい要素が主語となり、もともとあった古い建物の魅力を引き立てています。
共通するのは「あえて残している」という意図の伝達
1と2では主語の位置づけが逆ですが、共通しているのは受け手に「あえてこの古い状態を残している」という意図的なメッセージが伝わる点です。
この意図を感じたとき、人々は「ただ古いだけではない、デザインされた魅力的な空間だ」と初めて認識します。
歴史・デザイン・投資の最適なバランス
不動産活用においては「最小限の投資で最大限のリターンを得ること」が理想です。その観点からも、この手法は非常に効率的な手法と言えます。
従来の活用法(古い部分を隠して新しく見せる) では、建物が培ってきた歴史を見えなくしてしまい、結果としてどこにでもある建物になりがちです。また、解体や内装のやり直し費用がかさむため、投資効率が良いとは言えません。
一方、古い建物をそのまま活用するというのは、よほど歴史的価値が高い特殊な例を除き、一般的な人にとって「ただ古いだけ」に見えてしまい、魅力が伝わりません。
一方、建物を適切な用途へ転用することに加え、古さを活かしたデザインを意識すると、部分的なテコ入れで素材の魅力を引き出すことができ、結果として建物をほぼそのままの形で価値の高い物件へと生まれ変わらせることができます。
新しいものばかりを追い求めるのではなく、その建物だけが持つ魅力に着目し、それを磨き上げる。
古い建物を活用する際は、ぜひこの「古さを活かしたデザイン」を意識してみてください。建物の持つポテンシャルを、より多くの方に届ける大きな鍵になるはずです。