古い家の活用には、いくつかの方法があります。
1つ目は、「用途を変える」という方法。 元々は住宅だった建物を、店舗や宿といった異なる用途へ変更し、不動産としての価値を高めるアプローチです。
2つ目は、住宅という用途はそのままに、「複数人でシェアする」方法。 いわゆるシェアハウスと呼ばれる形態です。
そして3つ目が、「用途を変え、さらに複数の人や事業でシェアする」という方法です。
今回はこの3つ目の手法について、私たちが2026年に手掛けた「糸島エーテ」というプロジェクトを実例にご紹介します。
明治築・180㎡の建物をどう活かすか
「糸島エーテ」は、明治時代に建てられた2階建ての古民家で、延べ床面積は約180㎡あります。
古い家ならではの趣や素材感は非常に魅力的である一方、現代の住宅としてそのまま暮らすには、断熱性能や設備の古さなどがどうしてもネックになります。そこで私たちは、まずこの建物を「店舗として活用できる商いの場」へと転換することを決めました。
ここで課題となったのが「180㎡」という広さです。
この建物がある糸島市長野は、福岡市の中心部から車で1時間ほどの場所に位置し、畑や山に囲まれた自然豊かなロケーションです。
近年の不動産価格や市街地テナント賃料の高騰に加え、SNSの普及によって「決して駅前・好立地とは言えない場所」でも強い集客力を発揮する事例が増えています。都市部からアクセスできる豊かな自然環境で商いを営むことには確かな需要があり、実際にここで店を開きたいと考える事業者も一定数いるはずだと、私たちは推察しました。
とはいえ、郊外の180㎡を単独で借りて商売をするとなれば、改装費用や家賃の負担が重く、一定の資本力を持つ企業でなければ手が出せません。しかし、そうした潤沢な資本力を持つ企業と、この建物が持つ素朴な空気感や糸島の自然環境がマッチする可能性は決して高くありません。何より、そうした「奇跡的な借り手」が現れるのを待つだけでは、プロジェクトの成否が運任せになりすぎてしまうという懸念がありました。
4つの区画に分けることで、参入のハードルを下げる
そこで私たちは、この建物を4つの区画に再編してシェアすることにしました。
以下の図面が今の糸島エーテの実際の間取りです。

15㎡〜60㎡まで広さの異なる4区画を設け、共用の廊下や水回りを配置しました。
家賃もそれぞれの面積に応じて設定しているため、各事業者は自分の商いの規模感に合わせた無理のないコストで出店できます。その結果、大手資本ではなくても、「この場所や空気感に深く共感してくれる事業者」に集まってもらうことが可能になりました。
現在、糸島エーテでは地域にルーツを持つ個性豊かな4店舗が、それぞれの特色を活かして営業を続けています。
「用途変更 × 区画再編」がもたらす相乗効果
この取り組みの肝は、「想定するターゲット像に合わせて建物を再編する」という点にあります。
もちろん、「想定した使い方やターゲット層が実際には存在しないかもしれない」というリスクは常に伴います。しかし、実在するかどうかも定かでない曖昧な借り手を漠然と待つのではなく、こちらから「こういう人に、こう使ってほしい」という明確なターゲットと用途を設計し、それに合わせて建物を能動的につくり変えていく。
いわば「攻めの不動産活用手法」です。
だからこそ、プロジェクト中は「この建物の価値を最大化するには何が必要か」を突き詰めて考える必要があります。そしてその思考を重ねた結果が、借り手にとっての「使い勝手の良いサイズ感」や「無理のない適正家賃」といった具体的なメリットとして還元されていくのだと考えています。
ちなみに、ここからさらに一歩踏み込むなら、「異なる用途同士を一つの建物内で掛け合わせる」というアプローチも非常に有効です。
たとえば「宿」と「飲食店」を同じ建物内に共存させれば、宿泊客が階下の店舗で朝食や夕食を楽しめるなど、事業者同士のシナジー(相乗効果)が生まれます。単一の用途だけでは生み出せない賑わいや、建物全体の多面的な魅力へとつながっていくはずです。

用途の変更、間取りの再編、そして異なる用途の並存――。 組み合わせが複雑になればなるほど、法規や設計などのクリアすべきハードルは高くなります。しかし、そのパズルを解き明かした先には、当初の想像をはるかに超える建物の魅力や価値が立ち現れます。
不動産という仕事の奥深さと面白さは、まさにこうした瞬間にあるのだとつくづく感じています。