コテンポとは?

初めてその建物の中に入った時の感覚を今でも鮮明に覚えています。築七十年を超えるその建物の中心には吹き抜けが設けられ、その吹き抜けを囲うように中廊下と階段が配置されていました。まるでスタジオジブリの映画「コクリコ坂」に出てくる古い洋館のようで、胸が高鳴りました。さも有名な建築物のような前置きですが、実はこの建物は中古住宅として売り出されていました。建物の価値はゼロと見立てられ、古屋付き土地として売られていたのです。

映画「コクリコ坂」に出てくる古い洋館、もとい〝カルチェラタン〟は文化部の部室棟でした。吹き抜けを囲むように各部室の入り口ドアが配置され、壁には本棚、階段の途中には手作りの小屋が建てられていました。まさに魔窟。子供の時に思い描いた秘密基地そのものでした。初めて映画を見た時は、ストーリーもさることながら、カルチェラタンの秘密基地感に胸を高鳴らせたことを覚えています。

この中古住宅を見たとき、その造形から(映画よりはるかに小さく、仕様も異なっていましたが)建物内の部屋を部室のように使って商いを営むお店と、それらのお店を繋ぐように配置された階段と中廊下を人が行き来する様子をありありと想像することができました。世間一般には価値がゼロと見られていたこの建物には、大きな可能性があると感じ、そして、その可能性を見出せるのは(少なくともその建物に限っては)私だけだと思いました。

結局、その建物は諸々の事情により購入に至らなかったものの、そこでの経験は私に大きな気づきを与えてくれました。世の中には、本来の価値を見出されずに放置されている建物が多く存在し、その可能性を見出し実現することが、私にはできるかもしれないということ。そこに私自身がワクワク感を感じること。そして何より、そのことによりその古き良き建物を後の世につかい継いでいくことができるということ。

当時、不動産コンサルティング会社の工事課に所属していた私は、偶然にもそれから数年の内に同じような経験を複数回体験することになりました。古い住宅を持つ所有者から、「思い入れがあるこの建物を何とか手放さずに後世に残していくことはできないか」という相談を受け、その解決策として、古い住宅を店舗用の建物へリノベーションするプロジェクトを複数回担当したのです。これらの建物は、世にいう古民家と定義されるような歴史的な建築物ではなかったものの、リノベーション後の建物はレトロな魅力がある店舗用木造建築物として、多くの方に選ばれ、今も大切に使われています。この経験から私が以前感じた感覚は間違っていないと確信しました。

1、世の中には、本来の価値を見出されず放置された建物がたくさんある。

2、その可能性を見出し実現することが、実際にそして多くの建物でできるということ。

3、そのことにより思い入れのある古き良き建物を後世につかい継いでいくことができるということ。

結局のところ、私自身はその可能性を追い求めて、2023年に勤めていた会社を辞め、一人で会社を立ち上げました。何の変哲もない古い住宅が、多くの人にとって特別でユニークな建物に変わっていく、その魅力に惹かれ、そこに全力を投じてみたくなったのです。

会社の名前は「コテンポ」

古い住宅に新しい価値をつくりだす為の再生企画とリノベーションを行っています。

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